FEB. 2, 2017

ナポリタンを食べながら電話をする人を見かけた。

ナポリタンを食べるという動作。電話をするという動作。その両方が互いに干渉することなく、とてもスムーズに入れ替わり立ち代わりしている。手馴れたもので、見事な立ち回りだった。

でもときたま、ぶつかり合うこともあった。ナポリタンを口で咀嚼する動作と電話に向かって声を発する動作が、がちんとぶつかっている。要はくちゃくちゃものを食べながら電話をしているということ。電話の向こうの誰かさんの耳元を想像してみる。どんなものだろう。

35歳くらいの、みためさっぱりとした男性はそんなこと気にする風でもなくて、ナポリタンを食べること、電話をすること、どちらも手を緩めない。清々しく感じられるほど。

その日いたのは、駅前の喫茶店。
ロータリーにつながる商店街のその一番手前にある古いビルの二階。昭和然とした佇まいで、店に入ればカランコロン。全席喫煙可。禁煙スペースも分煙もなし。内装はレンガ張り、オレンジ色のあかりが灯り、えんじ色の合皮が貼り付けられた椅子が並ぶ店内は純喫茶そのもの。極め付けは店の真ん中にどかんと置かれた電話ボックス。意地でもこの電話ボックスは撤去しないぞ。という気概を感じる。

彼の動作それ自体を切り出してみれば褒められたものではないと思うのだけど、そんな店でナポリタンを食べながら無作法に電話をすることはむしろ正しくも見え、まるで違和感がなく、大げさに言えば様式美のようなものすら感じれる。

ナポリタンを食べる動作について言えば、フォークでくるくると巻いたナポリタンを口元まで運ぶのではなく、顔を皿のところまでぐいっとさげてナポリタンを口に入れている。その動きをするときも電話は顔にぴたりと張り付いたままで。

あなたのその食べ方はなんとか口と言うものでマナーが悪いから止めたほうがいい。それに電話をしながら食事をするとはどういうことだ。すぐに切りなさい。普通に食事をしていたらそう注意もされるだろうけれど、その場ではナポリタンはそういう食べ方をするものだとも思えてくるから不思議。

食べ終わったらもちろんのことその人はタバコをふかしはじめるわけで、幸せってこういうことかな、みたいな気にすこしさせてくれた。

「ナポリタン」で本を検索してみたら「純喫茶、あの味」なんて本が見つかる感じ、やっぱりそうですよね。

ナポリタンの安心感ってなんだろう。初めて立ち寄った喫茶店でも、ナポリタンを食べればなんだか懐かしい気持ちになる。

子供も好きな定番洋食。というカテゴリで、例えばカレーライスや、ハンバーグ、オムライスなどもありますが、それらの中でもナポリタンは特に郷愁を誘うというか、安心感が違う。僕の中では。

初めて食べるハンバーグ。初めて食べるオムライス。初めて食べるナポリタン。

やっぱりナポリタンかな。

トマトの味というよりはケチャップの味がして、ちょっと焦げていて、ぶっとい麺で、ベーコンよりはソーセージ、ピーマンと玉ねぎ、あればマッシュルームも。
たっぷりと粉チーズをかけて、豪快に食べる。

やっぱりナポリタンだな。